ドラブロ ーバス運転士の徒然日記ー

バス運転士が日常の気になったコトやモノについて書き綴っています

人間が耐えられる高温多湿の限界温度とは

ペンシルベニア州立大学(PSU)の研究により、湿度の高い環境で人が耐えられる気温の上限は、これまで想定されていたよりも低いことが明らかになりました。
研究の詳細は、2022年6月28日付で科学雑誌『Applied Physiology』に掲載されています。

https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/japplphysiol.00736.2021

ペンシルバニア州立大学の研究論文

ペンシルバニア州立大学の研究論文(画像:Applied Physiology)

発汗で体温調節できなくなる「湿球しつきゅう温度の限界」を調査

研究チームは今回、人が耐えられる湿度を合わせた上での気温の上限を理解するため、「湿球温度」に注目しました。
湿球温度とは、温度計の先端(感部)を水で湿らせたガーゼで包んだ状態で測定する温度のことです。
これに対して、ガーゼを用いない、いわゆる普通の状態で計ったものを「乾球温度」といいます。

両者は何が違うのでしょう?

熱というのは、水が蒸発するにつれて奪われていきます。
蒸発量が多いほど、熱が奪われて温度も下がっていきますが、逆にまったく蒸発しなければ温度はほぼ変わりません。
すると、先端を湿ったガーゼで包んだ湿球温度計では、水の蒸発によって熱が奪われていくので、乾球温度よりも表示される温度が低くなります。

一方で、空気が含むことのできる水蒸気の量には、限度があります。
空気中の水分にまだ余裕があれば、その分だけ水も多く蒸発できますが、空気の水分が限界に達していれば、水は蒸発できません。

これを乾球温度と湿球温度に置き換えると、「両者の温度差が大きい=水の蒸発量が多い=湿度が低い」となります。
逆のパターンだと「温度差が小さい=蒸発量が少ない=湿度が高い」となり、「温度差がない=まったく蒸発していない=湿度は100%」となります。
つまり、湿球温度とは周囲の湿度を踏まえた上での温度を示すものです。

では、これをさらに人の体温に置き換えてみるとどうなるでしょうか?
夏場になると、私たちの体は汗をかくことで水を蒸発させ(=熱を飛ばし)、体温を調節しています。
しかし、周囲の湿度が高ければ汗による蒸発量も少なくなるので、体温を容易に下げることができません。

そして、この研究で「湿球温度の上限を調べる」とは、「湿度100%の状態で人が耐えうる温度を調べる」ことを意味します。
これまでの研究によると、湿球温度35℃が人体の耐えられる最高温度とされていました。
これは湿度100%のとき35℃まで、湿度50%のときは46℃まで人体は耐えられるということを意味するそうです。

湿球温度35℃に長時間さらされると、熱中症や死亡にいたるリスクが高まります。
その一方で、この温度は理論やモデリングに基づいた机上のデータであり、人体を用いた実際のデータではありませんでした。

そこで今回の研究チームは、被験者を対象とした「湿球温度の上限」を調べる実験を行うことにしたということですね。

人間の耐えられる「湿球温度」は定説より低かった

今回の研究では、18歳から24歳の健康な被験者24名に協力してもらったそうです。

高温多湿の環境で死亡リスクが高いのは高齢者ですが、今回はまず、暑さに強い若者を対象とすることで、人体が耐えられる最大の湿球温度を調べることを目的としています。
実験に先立ち、被験者にはカプセルに封入された小型の無線遠隔測定装置を飲み込んでもらい、実験中の体幹温度を測定しました。

その後、被験者は温度と湿度を自由に調整できる特殊な実験室に入り、トレッドミルやサイクリングマシンで軽い運動を行います。
そして、実験室の温度と湿度を徐々に変えて被験者の体が体温を調節できなくなるポイントまで上昇させました。

今回の研究で行われた実験の様子

今回の研究で行われた実験の様子(画像:ペンシルバニア州立大学)

その結果、人体が耐えられる湿球温度の上限は湿度100%で30〜31℃と判明し、これまでの35℃より低いことがわかったのです。

研究主任のラリー・ケニー(Larry Kenney)さんは、次のように話します。

「この結果は、世界の湿度の高い地域では湿球温度31℃を超えると、若くて健康な人でも熱中症に注意すべきであることを示します。
また、今後の研究課題ではありますが、暑さに弱い高齢者ではこの数値がもっと低くなると予想されます。
熱波の統計を見ると、熱波で死亡する人のほとんどは高齢者です。
気候が変化しているため、今後より多くの、そしてより深刻な熱波が発生するでしょう。
また、人口は増加の一途をたどっており、高齢者の数も増えています。
ですから、人体が耐えうる湿球温度を知ることは、高齢層の命を守るためにも非常に重要なのです」

一方で、研究チームはこの結果について「湿度の高い気候においてのみ意味があるもの」と注意を促します。
乾燥した場所では、発汗により体温調節ができるので、人体が耐えうる温度もまた変わってくると思われます。

日本の気候は高温多湿のため、日本に暮らす僕たちにとってはこの情報に特に注目する必要があるかもしれません。
今は比較的気温の上昇が落ち着いてはいますが、雨が降っていて湿度が100%に近い状態では、気温が30℃くらいでも危険な状態であるということですね。
アメリカでの実験結果ですが、とても有益な情報が得られたように思います。
これから7月、8月の外出時には特に気をつけたいですね。