大阪大学医学部附属病院が面会制限を緩和しました
新型コロナウイルスの流行が落ち着き始めている中、大阪大学医学部附属病院が面会制限を緩和しました。
どのような判断だったのか、大阪大学医学部感染制御医学講座教授の忽那 賢志さんにインタビューした記事が載っていました。
——大阪大学のような大きな組織が率先して面会制限を緩和するなんて思い切りましたね。
確かにまだ多くの大きな病院は面会を制限していますね。
——どういう判断で制限を緩和したのですか?
デルタが流行した第5波の後、患者がかなり減った時がありました。当時はワクチンを2回うっている人の感染予防効果は高かったので、ワクチンを2回うった人という条件で面会制限を緩和しました。またワクチンをうてない人は不公平となるので、3日以内のPCR陰性証明を出していただいた場合も面会をOKにしました。
コロナ流行が始まって以来ずっと面会は禁止していましたので、この2021年10月が初めての面会制限の緩和でした。
そこで一度緩めたのですが、オミクロンが出てきて感染者が非常に増えてきたので、2022年1月4日に再び面会を全面的に禁止しました。オミクロンはワクチンの感染予防効果が低く、ワクチン接種が感染していないことの証明にはならないからです。 そしてまた感染が落ち着いてきたので、今年3月にPCRの陰性証明を条件にして再び面会制限を緩和していました。
——これまでも緩和はしていたのですね。そして今回の緩和ではPCR検査もワクチン接種も要件にしないことになりました。
そうです。リスクをゼロにすることはできないので、これで絶対安全とは言えませんが、一応ルールを決めています。
面会時間は30分以内で、面会中に食事は取らず、マスクを外した状態で会話はしないことにしています。面会場所も病室ではなく、デイルームです。体調不良の人はもちろん面会できませんし、患者さん一人あたり1日1回、一人の面会者までに限っています。
ルールを守っていただくために、この動画を受付のところで流しっぱなしにして、面会前に必ず見ていただくようにしています。
——考えてみれば「PCRの陰性証明は陰性である証明にはならない」と散々言われてきました。どんな要件を設けてもゼロリスクにはならないのが難しいところですね。
そうなんです。3日前に陰性だったからといって、今感染していないとは限らない。それが2日ならいいのか、1日ならいいのか、3時間前ならいいのかというキリのない話になります。
また、阪大病院の特徴として、臓器移植を待っている患者さんも入院していますから、入院が長い人はものすごく長いです。そういう方はコロナが始まってからほとんど家族にも面会できない状態が続いています。精神的なストレスは相当大きい。
それを考えると、コロナ流行も落ち着いてきて、コロナとの付き合い方もある程度みんなに浸透したと思うので、このタイミングで緩められるのではないかと考えました。
元々、病院長から、「今の面会基準を見直すことはできますか? 他の病院の状況はどうですか?」という問いかけをもらっていました。
「他の病院は面会禁止にしているところが多いです。PCRの陰性証明でOKとしている病院もまだ少ないです」と話したうえで、「コロナも落ち着いているし、阪大は長期入院の患者も多いので面会条件を細かく決めて再開するのがいいのではないか」と提案しました。
「阪大として全国の見本になるような形で提示できるかもしれないです」ともお伝えして、「ではやりましょうか」とGOサインが出たわけです。
——コロナの性質も流行状況も変わっていますから、一定の基準を設けるというよりは、総合的に判断してということですね。
そうですね。感染のリスクだけを考えると、面会しない方が安全なのです。それは間違いなくそうです。
ただ、だんだん重症化する人の割合も減っていますし、流行状況も日々変わっています。ずっと「ゼロリスク」を目指すのではなく、ある程度、リスクを許容できるタイミングになってきたということです。
——医療側も治療に使える薬が増えましたし、重症化した人でベッドが溢れて大変という初期のような余裕のない状況ではなくなっているわけですね。
そうですね。クラスターが発生してもすぐに対応できるようになりました。医療者側も慣れてきたところがあります。
——まだ大阪も東京も新規感染者数は1500人ぐらいで、少し前なら大変な数だと受け止めていましたが、今は「こんなものか」と一般の人も恐れなくなっていますね。コロナの受け止め方が変わってきましたよね。
「たったの1000か」ぐらいになっていますよね(笑)。慣れてきたのでしょうね。
それに伴って患者さんのご家族からも「面会したい」という要望は増え、ご要望にお応えしたい、と思っています。
——だんだん病院も「ウィズコロナ」に近づいてきているということですね。
病院の場合、医療者が感染すると患者さんにうつしてしまうことがあるので、一般の人と同じペースで緩めていくことは必ずしもできないと思います。自分が感染した時のインパクトを考えると慎重にならざるを得ません。
ただ、病院は病院でずっとガードをガチガチに固めておくというのもやり過ぎで、病気の深刻さと合わせて緩めていくべきなのかなと思います。そういう意味では今はいいタイミングなのかなと思いました。
——状況が変われば、また面会禁止に切り替えることも考えていますか?
それはあり得ると思います。オミクロンは重症化しにくいと言われていますが、次に出てくるウイルスが重症化しにくいものなのかはわかりません。例えばデルタのように重症化しやすくて、感染力もさらに高いものが出た場合は、再び厳しくする可能性が十分あります。
ワクチンが次の変異ウイルスにどれぐらい有効なのかにも関わってきます。面会条件はその時のウイルスの性質や病気の重症度に合わせて変えていくべきだと思います。
——今はデイルームまで来られる患者さんが対象になっていますが、ベッドに寝たきりの重症な患者さんはまだ難しいですか?
それは段階的に今後、検討していきたいとは思います。もちろん、お看取りの場合は、緊急時ですから面会はしていただいています。各病棟の判断で面会してもらっています。
——今回、Twitterに動画を投稿されたのは、患者の家族に伝える意味もあったでしょうけれど、先ほど「阪大が全国の見本にあるように」とおっしゃったように、全国の医療機関に緩和を提案するという意味もあるのでしょうか?
阪大病院は特殊な長期入院の患者さんが入院されているので、病院の性質によって対応は変わると思います。
例えば在院日数が1週間以下のところは、面会は我慢してもらう判断になるかもしれませんし、長く入所している人が多い高齢者施設などでずっと面会できないとなると大きな問題になると思います。
一律に全ての病院が制限を解除すべきだということではなく、見直しの時期にきているのだと思います。各病院の状況に合わせて、緩和を検討するきっかけになればいいと思います。
もちろん今後、阪大病院で感染者がたくさん出たら大変ですから、我々が安全に面会制限を緩和できるかを見ていてもらいたいとも思っています。
——今回は面会制限の緩和ですが、少しずつ政府も再び流行が起きた時に対策を緩和してもいいのではないかと分科会やアドバイザリーボードなどの専門家組織に問いかけています。先生は他の緩和についてはどう考えますか?
基本的にはその方針でいいと思います。
最近のアドバイザリーボードで個人用防護具の取り扱いについて、患者さんと接触する予定がなくて、病室に入るだけだったらガウンを着なくてもいいという提案が示されました。感染対策も安全なところから少しずつ緩和していくのだと思います。
私自身もその方針には賛同しています。
——極限の感染対策を続けていると医療者側もストレスが溜まるでしょうね。
そうですね。エボラ出血熱であれば感染すると3 〜4割の人が亡くなりますからガチガチの感染対策を常に固めて診察する必要があると思いますが、コロナは違います。
当初感染者の5%程度が亡くなっていた時期がありましたが、その時にはしっかり感染対策をというのは当然だと思います。
でもだんだんと重症化率も下がってきていて、致死率は今0.3%ぐらいまで改善しています。それなのにずっと同じ感染対策を続けているのもおかしい気がします。
感染対策はその感染症の感染性と重症度を勘案して変えていくものです。重症度が下がっていくにつれて、感染対策の考え方を変えていくことは健全だと思います。
——9日から緩和して今日は3日目ですが、面会は増えていますか?
今のところめちゃくちゃ増えていることはなさそうですね。 週明け、病棟を回って様子を見ようと思うのですが、今のところすごく増えて大変ということではなさそうです。デイルームが溢れていたりすると、対応を考えなければいけませんが、今のところは大丈夫みたいです。
病人の方に面会するので皆さんも気をつけていただいていると思います。ちゃんと守っていただければ深刻なことにはならないでしょう。
——ところで、動画には先生もばっちり出演されていますね。
動画を作って面会する前にしっかり見てもらった方がいい、と僕が発案したんです。動画の中で解説する人がいるね、という話になって、じゃあ僕がやるか、ということで何となく......自ら企画と出演をしてしまいました(笑)。
——Twitterで拡散していますが、阪大病院に関係する人だけでなく、全国の人に見てもらって自分の地域の対応を見直すきっかけにしてほしいということですね。
すべての病院が面会を再開すべきだとは思いません。個々の事情や病院の性格がありますから。ただ、面会の条件を見直すきっかけになればと思います。面会すること自体が感染につながるというよりは、面会中にマスクを外して会話したり、食事をしたりすることで感染し得るので、ちゃんと注意してもらえば本来面会はできるはずです。
そこをいかに徹底していただくかが大事です。
——そのあたりがまだしっかり伝わっていなくて、流行が落ち着いてきたから、「マスクはどんなところでも全部外せ」などと言う人がいるので難しいです。
何でもOKではなく、感染対策をしっかりしていただいた上で面会していただく。その中でワクチンやPCR検査の条件は取り外しましたということです。
——これからまだコロナとはしばらく一緒に暮らしていかなければいけなそうですかね。
半年に1回ぐらいのペースで変異ウイルスが出ています。オミクロンが出てもう半年ぐらいが経ち、次がどうなるのかわからないですが、オミクロンはワクチンによる感染予防効果は低いので、完全に消え去ることは当分難しい。
動物にも感染しますから、人の中で感染が減ってもどこかにウイルスは存在し続けます。なくなるものではないのだろうと思います。
だからうまく付き合っていく必要があるし、突然、全く予想していなかったような変異ウイルスが現れて爆発的に広がることも考えられます。その時には、それまで緩めていた制限をまた少し戻すなど、柔軟な考えが必要です。
だんだんと緩和していくのは間違いないですが、状況によっては3歩進んで2歩下がるようなやり方が安全です。何かあれば2歩下がるような考え方を、みんなが許容してくれたらと願っています。
記事引用元:BuzzFeed Medical
待ちに待った病院での面会制限緩和
2022年6月9日(木)から、大阪大学医学部附属病院では入院されている患者さんに面会する人に対してのPCR検査の陰性証明書の提出を不要としました。
今回の面会制限の緩和措置に伴って、ワクチン接種証明書やPCR検査の陰性証明書が不要となったため、家族や知人が面会に行くハードルがグッと下がりましたね。
依然として面会できる人数は1人、面会時間は30分以内、マスクの着用などの制限はありますが、そのルールさえ守っていれば面会が可能となるのでいいですよね。
もちろん、今後の感染状況によっては面会制限が行われることもあるとのことですが、このような流れが全国の病院や介護施設に広がってくれるとありがたいですね。