ドラブロ ーバス運転士の徒然日記ー

バス運転士が日常の気になったコトやモノについて書き綴っています

軽井沢スキーツアーバス転落事故から6年が経過しました

2016年1月15日(金)、長野県北佐久郡軽井沢町の国道18号碓氷バイパスの入山峠付近で、大型観光バスがガードレールを突き破って道路脇に転落しました。
乗員乗客41人(運転手2人、乗客39人)中15人が死亡(うち乗員は2人とも死亡)、生存者も全員が負傷するという大事故になりました。

軽井沢スキーツアーバス転落事故の概況

軽井沢スキーツアーバス転落事故の概況(画像:産経新聞

事故原因については様々な意見が出ておりましたが、結論としては、大型バスをほとんど運転したことのない運転手の運転操作に問題があったことが事故の原因とされました。
バス業界全体が運転手不足の中、自信のない運転手に無理に運転を強いた会社の責任が問われたのは、報道でも覚えてらっしゃる方が多いのではないでしょうか。

この10年でバス業界に影響を与えた事故はもう一つ

上記のスキーツアーバス転落事故の他に、バス業界に大きな影響を与えた事故がもう一つあります。
それが、2012年4月29日(日)に発生した関越自動車道高速ツアーバス居眠り運転事故です。

関越道高速ツアーバス居眠り運転事故現場の写真

関越道高速ツアーバス居眠り運転事故現場(画像:上毛新聞)

この事故は、2012年4月28日(土)の22時過ぎにJR金沢駅前を出発し、途中、富山県高岡市で乗客を乗せて、新宿駅や東京駅を経由して東京ディズニーランドに向かう高速ツアーバスとして運行していました。
このバスには乗員乗客46人(運転手1人・乗客45人)が乗っていましたが、翌4月29日(日)4時40分頃、関越自動車道上り線藤岡ジャンクション付近で防音壁に衝突。
バスは大破して、7人が死亡、2人が重体、12人が重傷、25人が軽傷を負うなど、乗員乗客46人全員が死傷する大事故でした。

この事故の原因は運転手の居眠り運転だったことが分かっていますが、その他にも

  • 高速ツアーバスの金沢便の乗務が初めてだったこと
  • 乗務距離が1人あたりの上限である670kmを超えていたこと
  • 道に不慣れなため、運行指示書に記載されていた上信越自動車道経由ではなく、独断で関越自動車道経由にルート変更していたこと

などが明らかになっており、こちらも起こるべくして起こってしまった事故という印象でした。

今年は、この関越自動車道高速ツアーバス居眠り運転事故から10年と、軽井沢スキーツアーバス転落事故から6年という月日を迎えます。
この2つの大きな事故は、バス業界に大きな影響を与えました。

2つの事故がバス業界に与えた影響

まずは、関越自動車道高速ツアーバス居眠り運転事故後の変化からご紹介しましょう。
事故を起こしたバスは「高速ツアーバス」という、旅行会社が企画し、バス会社に運行を委託する形の都市間移動サービスでした。

事故を起こした高速ツアーバス「ハーヴェストライナー」は、金沢・富山~関東間の片道「旅行代金」は3,000円台に設定されており、同区間の高速路線バスの運賃の半分以下と格安で運行されていました。

高速ツアーバスの利用者は2005年には約21万人でしたが、国の規制緩和により新規参入事業者が増え、2010年には約600万人の方が利用していました。
そのため、事業者間の過当競争となり「立場の強い旅行会社がコスト削減を強要し、安全対策がおろそかになっている」との指摘がバス関係者から上がっていたそうです。
総務省でも、2010年に国土交通省に対して指導を徹底するよう勧告がなされていた矢先の出来事でした。

事故後、国土交通省高速ツアーバスを運営する旅行業者にバス事業の認可を取得させ、新たな高速乗合バスへの一本化を図ることを決定しました。
この新たな高速乗合バスへの一本化には、正式なバス停を設置することや、時刻表を策定してその通りに運行するなど(高速ツアーバスは人数が一定数集まらなければ直前になって運行中止ということもありましたが、高速乗合バスは時刻表に記載されていれば乗車人数がゼロでも運行しなければなりません)の規制強化が盛り込まれた一方で、運賃の変動幅についてはこれまでよりも柔軟な運用ができるよう、高速ツアーバスのいいところは取り入れる形で変更されました。

国土交通省はその後、都市間ツアーバスを運行する事業者に対して緊急重点監査を実施し、高速ツアーバスの運行事業者(バスを運行する事業者)のリストを発表。
2013年8月、旅行業法で行われていた「高速ツアーバス」は「高速乗合バス」に統一されました。

次に、軽井沢スキーツアーバス転落事故後の影響についてご紹介します。
事故原因については運転手の技量不足によるものだということだったので、「新たに雇い入れた運転者(初任運転者)等への指導において、20時間以上の実技訓練の義務付け、実技訓練以外の指導(座学)時間の延長(6時間から10時間)等を行う」ことや「運転者に直近1年間に乗務していなかった車種区分(大型・中型等)の貸切バスを運転させる場合に、初任運転者等と同様の実技訓練を義務付ける」ことが義務付けられました。

他にも、「貸切バス事業者の事業遂行能力を一定期間ごとにチェックするため、既存事業者を含め、事業許可の更新制を導入する」や「ドライブレコーダーの装着及びこれによる映像の記録や当該記録を活用した指導・監督を義務付ける」といったことが盛り込まれ、これによって貸切バスを運行する際にはドライブレコーダーの装着が義務付けられることになりました。

大きな事故が起こって人の命が失われて初めて規制を強化する、というのは現在起こっている知床半島の観光船沈没事故でも同じことを繰り返していますよね。
軽井沢スキーツアー転落事故の際、僕は組合の役員をやっていて、役員会の話の中で愕然としたのが、あれだけの事故が起こったにも関わらず、国はバス事業者の新規参入を毎日数十社許可を出し続けていたということでした。
以前、うちの組合の委員長が国土交通省の役人たちに訴えた「人の命が関わるところに規制緩和を持ち込むな」という言葉を、国の役人の方々にはもう一度考えてもらいたいものです。